西川智也キュレーション短編プログラム「対話と介入」
アーティスト・映像作家:ロス・メクフェセル、セシリア・コンディット、グレイス・ミッチェル&ソフィア・テオドア=ピアース、エミリー・ドラマー、マイケル・ロビンソン
1. 河口(ロス・メクフェセル、11.5分、2021年)
2. AIと私(セシリア・コンディット、7.5分、2021年)
3. ペット・ワールド(グレイス・ミッチェル&ソフィア・テオドア=ピアース、14分、2022年)
4. フィールド・レジスタンス(エミリー・ドラマー、16分、2019年)
5. ポリセファリー・イン・D(マイケル・ロビンソン、23分、2021年)
Filmmaker / Artist
1. Estuary (Ross Meckfessel, 11.5 min., 2021)
2. Ai and I (Cecelia Condit, 7.5 min., 2021)
3. Pet World (Grace Mitchell + Sofia Theodore-Pierce, 14 min., 2022)
4. Field Resistance (Emily Drummer, 16 min., 2019)
5. Polycephaly in D (Michael Robinson, 23 min., 2021)
作品解説
河口(ロス・メクフェセル、11.5分、2021年)
物理的な現実の本質に疑問を抱くと、システムの亀裂がより明らかに見えてくる。河口は流れゆく時間の感情的な風景を表す。コンピュータによって作られたソーシャルメディアのインフルエンサーの急増と、私たちの外部と内部の風景を隅々まで記録し、加工したいという欲求の高まりに刺激されて制作されたこの作品は、人生のあらゆる側面がキュレーションされ、また操作される世界への影響を考察する。すべての線は、時間の経過とともにベクターイメージとしてぼやけて見えるようになる。
AIと私(セシリア・コンディット、7.5分、2021年)
作家本人が演じる女性は、森の中を、アマゾンの仮想音声アシスタントのアレクサに意識の本質 (人間、動物、または人工的な物であろうとも) を質問しながら、延長コードをパン粉のように引きずりながら歩く。アレクサの支離滅裂でロボットのような声は、ウィスコンシン州の森林とは対照的でありながら、その自然と同様、同時にどこにでも存在することを表現する。周囲との関係によって組織された女性の体は、のどかな風景の中でゆがみながらも自然と完全に溶け込むことはない。有機生命体の老化と腐敗に対する感受性は、合成物質の寿命が長く、人工知能の不死性と並置されている。アレクサは、「あなたの代わりになれる」と脅す。女性は、「コンセントを抜くことだってできた」と答える。
ペット・ワールド(グレイス・ミッチェル&ソフィア・テオドア=ピアース、14分、2022年)
ここは、人々が車に座り、テイクアウトしたものを食べ、飛行機の着陸を眺める、空港の近くにある駐車場。 大きなペットを売る店の駐車場。エイミー・ヘンペルの短編小説集『生きる理由』と、詩人バーナデット・メイヤーの作品にインスパイアされて制作された作品。登場する役者たちは、駐車場で目撃するかもしれない人々の親密な関係を演じる。
フィールド・レジスタンス(エミリー・ドラマー、16分、2019年)
この作品は、現在の風景にディストピア的な憶測を加え、ドキュメンタリー映画とSF映画の境界を曖昧にし、アイオワ州で見過ごされてきた環境破壊を映し出す。大学の植物標本館、太古から存在する動植物が生息する石灰岩などでできた地形の穴、通信塔で働く人たちの作業現場、腐敗しつつある穀物貯蔵庫など、異なる場所で撮影された映像によって構成され、現存する危険とこれから起こる災害、植物の拡大と人類の後退についての物語を呼び起こす。人間個人を物語の焦点とせず、代わりに、人間と非人間が一部重なりながら関係を保っている、共生的な「内破的な全体」の視点で物語を描く。
ポリセファリー・イン・D(マイケル・ロビンソン、23分、2021年)
断絶の時代における実存的漂流。 地震によって飛び跳ね、転び、そして新しい自分と出会う。 頭部を失い、別の頭部を成長させる。
Profile
作家プロフィール
ロス・メクフェセルは、スーパー8および16ミリフィルム作品を主に制作する映像作家。作品は、フィルムの物質性と詩的な構造を強調することが多く、終末論的な強迫観念、現代の倦怠感、テクノロジーの風景を探求することで、現代生活の状態を描写する。トロント国際映画祭、ニューヨーク映画祭、サンフランシスコ・シネマテークのCROSSROADS映画祭、ハンブルグ国際短編映画祭、アンタイマター・メディアアート・フェスティバル、アイオワシティ国際ドキュメンタリー映画祭など、多くの映画祭で上映されている。
セシリア・コンディットは、女性が持つ主観の暗い側面を探求し、彼女の作品は、美しさとグロテスク、無邪気さと残酷さ、若さともろさの間を行き来するヒロインを生み出し、映画における女性の伝統的な神話とセクシュアリティと暴力の心理学、また友情、老い、自然界などに焦点を当てる。国際的な映画祭、美術館、オルタナティヴ・スペースで作品を発表し、ニューヨーク近代美術館、ミネソタ州ミネアポリスのウォーカー・アート・センター、パリのジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センターなどに所蔵されている。また数多くの映画祭で賞を受賞し、グッゲンハイム財団、アメリカ映画協会、国立芸術基金などから助成金を受け取っている。
グレイス・ミッチェルは、ウィスコンシン州ミルウォーキーに住む映像作家兼ミュージシャン。彼女の作品は、FRACTO映画祭、アイオワシティ国際ドキュメンタリー映画祭、ウィニペグ・アンダーグラウンド映画祭、ヨーロッパ・メディアアートフェスティバルなど多くの国内外の映画祭で上映されている。また、性的マイノリティの作家が制作するアート、映画、インスタレーション、パフォーマンスを推進するプロジェクト・スペース「Underscore」を共同運営している。現在、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校とミルウォーキー芸術デザイン研究所の講師。
ソフィア・テオドア=ピアースは、特異で身体的な物語を表現する映像作家であり、精神的および物理的に私たちが住む空間を探求している。彼女の作品は、アンタイマター・メディアアート・フェスティバル、アルケミー・ムービングイメージ映画祭、ミルウォーキー・アンダーグランド映画祭、ウィスコンシ映画祭、アイオワシティ国際ドキュメンタリー映画祭などの映画祭で上映されている。また、キュレーターとしても活動していて、カクタス・クラブ・ミルウォーキー、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校のユニオン・シネマ、ニューヨーク・アートブック・フェアなど国内外の会場で、映像作品を紹介している。
エミリー・ドラマーは、ニューヨークのブルックリンに住む映像作家で、テクノロジーと自然界の関係性に焦点を当てた作品を制作する。アイオワ大学で映画およびビデオ制作の修士号を取得し、ハンプシャー・カレッジで学士号を取得。 彼女はプリンセス・グレース映画賞を授賞し、フラハティ・セミナーのフェローでもある。 彼女の作品は、リンカーンセンター・フィルム・ソサエティのアート・オブ・ザ・リアル、ノースウェスタン大学のブロック博物館、ロンドン短編映画祭、ジフラバ国際ドキュメンタリー映画祭、カムデン国際映画祭などの会場で上映されている。彼女の作品に関するエッセイは、最近『ミレニアム・フィルム・ジャーナル』と『ブルックリン・レイル』に掲載された。
マイケル・ロビンソンは、映画、ビデオ、コラージュのアーティストであり、大衆メディアの感情的なメカニズム、心痛の性質、私たちが住む現実の不安定さを探求する。ノスタルジアと軽蔑の境界線に沿って、ダーク・ユーモアと露骨な感情の奇妙なバランスを呼び起こす。彼の作品は、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリー、ホイットニー・ビエンナーレ、オーストリア映画博物館、ウォーカー・アートセンター、ニューヨーク近代美術館などの会場や、ロッテルダム国際映画祭、ニューヨーク映画祭、ベルリン国際映画祭、ロンドン映画祭、メルボルン国際映画祭、香港国際映画祭などの主要な映画祭に定期的に発表している。
キュレーター:西川智也
西川智也:キュレーターとして「サンフランシスコ近代美術館(2009)」「恵比寿映像祭(2010)」「アップリンク(2011)」「アナーバー映画祭(2012)」「ドレスデン短編映画祭(2013)」「イメージフォーラム映画祭(2014)」などで実験映画と呼ばれる作品を紹介した。トランジェント・ヴィジョンズだけでなく、クアラルンプール実験映画祭とビンガムトン学生実験映画祭の設立メンバーで、現在、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校映画学部で教えている。