劇団PuPによる映像作品上映

映画監督:PuP (Panthea und Pausanias)

『sed bedaŭrindege ni ne povis savi iliajn vivojn (だが極めて残念なことに我らは彼らの命を救うことができなかった)』(28分/2022)エスペラント語 ※日本語字幕付き
『「熊本評論社」訪問』(6分/2024)

Filmmaker: PuP (Panthea und Pausanias)

“sed bedaŭrindege ni ne povis savi iliajn vivojn (but most unfortunately we could not save their lives)”
(2022/ 31min) Esperanto
“A Visit to ‘Kumamoto Hyoron-sha (Kumamoto Review Society)’ ” (2024/ 6min) Japanese

作品紹介
持田睦が主宰する劇団PuP (Panthea und Pausanias) の映像作品を2本上映する。

戦前に投獄され、死んでいった7人のアナキストたちの生涯と活動をエスペラント語で簡潔に紹介した小冊子『JAPANAJ MARTIROJ DE ANARKISMA MOVADO』(※邦訳すると『アナキズム運動の日本の殉難者たち』)を、彼らの死地に赴き朗読する映像作品『sed bedaŭrindege ni ne povis savi iliajn vivojn (だが極めて残念なことに我らは彼らの命を救うことができなかった)』。
流暢というよりは、形式性を持ったエスペラント語による独特の朗読は本作の要と言えるが、PuPの中に元々エスペラント語が堪能なメンバーがいたわけではない。インターネット上の古書店でこの小冊子を発見し、それを解読する作業から制作が始まったのだという。
PuPの上演作品『朝、鮮、人!』では、日本統治時代の韓国から来日した朝鮮人女性の日本語「訛り」の法則を解読し、入念な稽古を経て、彼女の語りを上演によって再現した。

このような途方も無さを厭わない制作スタイルゆえか、却ってPuPの映像作品からは知識を観者に押し付けてくるような抑圧性や衒学性はなく、未知であることへの「入口」と、その肌理や質感の方が浮かび上がってくるように感じる。
恐らくほとんどの鑑賞者にとっては、エスペラント語の字面や朗読の響きは見慣れない・耳慣れないものであり、紹介されるアナキストたちと彼らの書いた文献も、大杉栄などと比べれば有名とは言い難く、字幕を追ってもその固有名詞を簡単に飲み込めるものではない。
唯一この映像に登場する風景だけは、私達にも見覚えのありそうな、似ている場所を知っていそうなものとして頼みの綱となっているが、この風景にこそ、PuPの獲得した異質さ(途方もない調査や訓練の末に生まれた演劇)が持ち込まれる。(この異質さは、映像に登場する明治天皇にまつわる石碑とある種の対称を成す。)
未知への入口は、私たちに与えられた目の前の風景を追認するのではなく、現状へのアクションを喚起させるスイッチとして機能する。



短編『「熊本評論社」訪問』は、PuPが熊本で行ったワークショップにおいて、明治社会主義運動の中で出版された半月刊新聞『熊本評論』を扱う中で制作された。本作においてもおよそ日常では耳慣れない日本語のテキストをWS参加者が朗読を通じて習得いていく様子が映像に収められている。ここではWS時に配布された資料の中で引用された、ドゥルーズ『シネマ』からの一節を孫引きさせてもらう。

「見られるイメージと、読まれる言葉にかわり、言語行為は聴かれると同時に見られるものになり、視覚的イメージも、それ自体として、すなわち言語行為という構成要素を挿入された視覚的イメージとして可読的になる。」
『シネマ2 時間イメージ』著 ジル・ドゥルーズ、訳 宇野邦一/石原陽一郎/江澤健

『sed bedaŭrindege ni ne povis savi iliajn vivojn (だが極めて残念なことに我らは彼らの命を救うことができなかった)』

『「熊本評論社」訪問』

Profile

PuP (Panthea und Pausanias)

フランスの映画監督ユイレ&ストローブに倣った仕方で、既存のテキストに基づいた作品作りをする劇団。2016年には、石川達三の小説『鳳青華』(1938年)と白信愛(ペクシネ)の随筆『旅は道伴れ』(1939年)を原作とした演劇作品『朝、鮮、人!』を、2018年には、石川達三の小説『日蔭の村』(1937年)を原作とした演劇作品『この大都市の茂みの日蔭で』を上演した。コロナ禍以降、作品作りの中心は映像に移行し、2022年には、フランスの詩人マラルメの詩『賽の一振り』(1897年)を原作とした映像作品『あらゆる革命はさいころの一振りである』をYouTube上で公開。2024年には、石川達三の小説『人間の壁』(1957-59年)を原作とした映像作品『彼女は組合というものが何となくきらいだった』を発表した。


持田 睦(もちだ まこと)

埼玉県出身。京都大学在学中の1994年に演劇活動を開始する。上京後、矢川澄子が翻訳したルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』を原作とした『「不思議の国のアリス」ごっこ』(2001年)などの諸作品を上演した後、ドイツの詩人ヘルダーリンが翻訳した古代ギリシアの詩人ピンダロスの『ピューティア祝勝歌』を原作とした『SoPrates』(2004年)の上演を最後に、演劇活動を12年間休止する。2016年の活動再開に合わせ「PuP (Panthea und Pausanias)」を結成。演劇活動休止中に、フランスの映画監督ユイレ&ストローブの研究を開始し、彼らの映画に関連する文章を国内外で発表している。Cf. http://www.sabzian.be/film/lothringen

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