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黑田菜月 作品特集
「観察の協働——媒介としての写真家」

『凹凸写真ワークショップ』 (2025年/5分)
『部屋の写真』(2021年/28分)
『アルバムの扉』(2025年/12分)
『動物園の避難訓練』(2023/2026年(再編集版)/50分予定)

※耳の遠い方や話している内容を後で振り返りたい方のために、会場でQRコードから字幕データを閲覧できるようにする予定です。

Artist / Photographer:Natsuki Kuroda


 黑田菜月は、「写真」の周囲で人々に生じる観察や鑑賞、またそれらを他者と共有するための言葉や身振りによるコミュニケーションを扱う写真家である。その実践は、長期入院によって登校に制限のある児童たちと、隔離された場所から触覚と言葉を用いて写真経験の共有を試みるワークショップのデモンストレーション映像『凸凹写真ワークショップ』などに顕著に表れる。そこでは色彩や構図という写真の視覚的固有性を失ったプレートが用いられ、いわゆる「良い写真」が持つスペクタクルや個別の美学すら必要としない、写真を介した人々の交流の場を提案している。

 勘違いしてはいけないが、その空間は決して我々鑑賞者を高みへ導くために負荷をかけたり、試練を与える場ではない。単に誰もが自らの見たもの、感じたものを言葉にして共有するために開かれた極めてセーフティでポジティブな場として機能する。

 介護労働従事者がかつて担当した要介護者の部屋の写真を読み解く『部屋の写真』、動物園の飼育員と熱烈なサポーターがそれぞれ動物園の危機管理について考察する『動物園の避難訓練』。これらの作品を見れば、出演者らの驚くほど素直で真剣な言葉や身振りの発露が当たり前のように映像に収められていることに驚くだろう。彼らにはそれぞれ独自の方法で真剣に培ってきた観察の方法や、写真に写ったものとの付き合い方があり、写真家もそれを優先する。黑田が写真家として重視するのは視覚的洗練ではなく、そのような観察や鑑賞の場において生まれる、自分たちの言葉で語るための自由さの質感である。

 このようにして従来の写真家(見て与える者)・鑑賞者(享受する者)のヒエラルキーを突き崩した場で、黑田自身の視点も、その外部に留まる上位存在としてではなく、一人の出演者として作品内を自由に往来する。本プログラムではそのような新しい写真家像を確認してもらいたい。

Profile

黑田菜月(くろだ・なつき)
写真家。
近年は、ワークショップなどを交えた映像作品、写真作品を手がける。
主な展覧会に、2014「けはいをひめてる」(ガーディアン・ガーデン/東京)、2017「私の腕を掴む人」(ニコンサロン/東京)、αMプロジェクト2020–2021「約束の凝集」vol.3 黑田菜月|写真が始まる(gallery αM/東京)、2023「東京ビエンナーレ 東京の処方箋『動物園の避難訓練』」(エトワール海渡/東京)、2023「つくりかけラボ13『野鳥観察日和』」(千葉市美術館/千葉)、2025 「日常のコレオ『凹凸写真ワークショップ』」(東京都現代美術館/東京)などがある。

主なプロジェクトに、2025 国際芸術祭「あいち2025」ラーニングプログラムメンバーなど。

Natsuki Kuroda

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