映画は引っ越しの風景から始まる。「中野」や「上田眼科」という文字の並ぶ日本的な住宅街で作業しているのは黒人の背の高い男性。そこに感じる違和感、驚きは、観客に彼が主役なのか、いや主役ではないかもしれないが、外国人労働者もしくは移民などの問題がこれから始まる物語の根底に流れているのではないかと推測させる。このファーストショットに本作の語法がいかに複雑かということが表れている。つまり、この黒人の男性はこの映画の主なストーリーには全く介入しない。しかし、強く印象が残る映画の冒頭の画面に、最初の登場人物として存在している。
次の室内のカットでこの引っ越しの当事者であろう別の男性が映り、ここにこの映画の主人公が登場する。翌日、その男性がジャケットを何枚も羽織り直すことで今日が大事な日だということを示しつつ、主人公の男性は「東京拘置所」から若い男性を連れ出してくる。そして彼を引っ越した自分の家へ連れて入り、「お前の部屋こっち」と告げる。それは、二人が一緒に暮らすということだ。主人公の男性は拘置所から出てきた彼に対してぶっきらぼうに話すが、彼は敬語で話している。つまり親子ではないし、その話しぶりからしてそこまで親しい関係ではないことが窺える。つまりこの二人の共同生活は何なのかと観客は思うだろう。ここでタイトルが明示される。「二十歳の息子」。息子?
この冒頭の9分間に、島田隆一の作品を貫く複雑な物語の構築方法が顕著に表れている。この後、『二十歳の息子』では、親子ほど年が離れているわけではなさそうな男性二人が、映画が進むに連れて、出所した彼の容姿が良いこと、主人公の男性がゲイであることが明かされていく中で、この文字列から想像するような物語には決して展開しない。いや、人によっては展開しているようにも見えるし、人によっては思っているのと違う方向に物語が進んでいく。
島田の他のフィルモグラフィでも、歌手を志す統合失調症の女性や、復興を目指す原発被災地の演劇部の高校生たち、廃校になる中学校の女子生徒3人などの登場人物が、いわゆるオーソドックスなドキュメンタリー、コンテクストをもった上で奮闘する主人公のように描かれるが、その誰しもが、いわゆるテレビやYoutubeなどの親切でわかりやすい、感情を委ねたら期待するほうに連れて行ってくれるような展開ではなく、これは進んでいるのか戻っているのか、作り手は何を期待して彼らを撮り続けているのかも分からなくなるような複雑さをもって映し出されている。
この一筋縄にいかない道筋。自分の脈動が聞こえてくるような試されているような鑑賞体験。現実は物語より複雑だけどここにあるのは現実より複雑なんじゃないかという世界。こういった他ではなかなか感じられない島田隆一作品の魅力を味わってほしい。




Profile
島田隆一
1981年東京都生まれ。ドキュメンタリー映画『1000年の山古志』(10/橋本信一)に助監督として参加。2012年11月、ドキュメンタリー映画『ドコニモイケナイ』を監督。同作品で2012年度日本映画監督協会新人賞を受賞。2014年、ドキュメンタリー映画『いわきノート』に編集として参加。2016年、プロデューサーとして参加した作品『桜の樹の下』(15/田中圭)が公開。本作品は、ドイツの映画祭ニッポン・コネクションにて観客賞と審査員特別賞を受賞。第71回毎日映画コンクールドキュメンタリー映画賞を受賞した。2020年、福島県双葉郡広野町を舞台としたドキュメンタリー映画『春を告げる町』を監督。同作は山形国際ドキュメンタリー映画祭2019ともにあるCinema with US部門、第11回DMZ国際ドキュメンタリー映画祭アジアコンペティション部門正式出品。その他のプロデュース作は『帆花』(21/國友勇吾)と『江里はみんなと生きていく』(24/寺田靖範監督)。監督最新作『二十歳の息子』が2023年2月に劇場公開された。現在、日本映画大学准教授。
Ryuichi Shimada
Filmmaker












