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天竜区奥領家大沢 冬

監督:堀禎一

(95分/日本/2015年)日本語

Filmmaker: Teiichi Hori

Year of production : 2015, Country : Japan, Length : 95minutes


「天竜区」は静岡県浜松市北部の広大な森林部に位置する。老人の語りを背景に、山間部の幽玄な風景や、農作業の様子などが膨大な数のショットによってひたすら描写されていく。巧みな農作業の身振り、終戦記念日のアナウンス、とち餅の調理風景をおさめた画面を鑑賞すれば、この地区の歴史的記憶や生活の伝統が鮮やかに想起させられるだろう。
しかし本二作品のもう一つの重要な点はむしろ、次第に異常に聴こえてくるショット毎にブツ切りにされた環境音・老人の声・ホワイトノイズのリズミカルな連続を呼び水に土地の歴史や風土から遊離し、映像における風景の「描写」とは一体何なのか、という映像そのものへの問いかけを誘発せずにはいられなくなる過剰さではないか。

Profile

堀禎一(Hori Teiichi)
アテネ・フランセ文化センター「堀禎一そして/あるいは現代映画」より(http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ho/hori.html)
1969年兵庫県生まれ。東京大学在学中、1年ほどパリでシネマテーク通いの日々を送る。帰国後、数本の8ミリ短編を自主制作(現存せず)。同大学仏文科卒業後、ドキュメンタリー映画作家の佐藤真が構成・編集を担当した『おてんとうさまがほしい』(1994)の制作助手を経験した後、ピンク映画界入りし小林悟に師事。北沢幸雄、サトウトシキらの助監督を務める。『宙ぶらりん』(2003)で監督デビュー。同作を含む3本のピンク映画を発表後、『妄想少女オタク系』(2007)で一般映画に進出。ライトノベルやコミック原作の青春映画に活動の場を拡げる。『魔法少女を忘れない』(2011)の後、数年の沈黙を経て、静岡県の過疎集落に生きる山間の人々の生活を記録した上映時間4時間超のドキュメンタリー「天竜区」シリーズ(2014–2017)を完成。続いて『夏の娘たち~ひめごと~』(2017)で新境地を開くが、その公開と同時に開催された初の全作品回顧上映の会期中に倒れ急逝(享年47)。