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池添俊作品特集

監督:池添俊

Special Feature: Films by Shun Ikezoe

Filmmaker: Shun Ikezoe


『愛讃讃』
人は分かり合えないもの。そう感じる原点には中国人の元義母の存在があった。四川語と関西弁が飛び交い、母の一人称を「お姉ちゃん」と呼んでいた過去を期限切れの8mmカラーリバーサルフィルムで映し出す。そのフィルムの使用期限はお姉ちゃんが出て行った年だった。

『his/her』
2019年逃亡犯条例に反対する民主化デモが起こる前夜の香港にて撮影。 大勢の人々が行き交う都会では、どこにいても人は他人の気配を感じながら生きている。不安、焦燥、寂しさ、慕情。街の中で一人、どこか遠くで消えてなくなりたい、と思った時にはもう、住処へ帰る道順を考えている。口笛を吹いていたのは、誰?

『揺蕩』
2019年逃亡犯条例に反対する民主化デモが起こる前夜の香港にて撮影。 香港を旅した時に見た風景は、昔夢で見たような懐かしさがあった。小さな島にひしめき合う高層ビルの下に広がる商店街や市場。未来的でありながら時間が退行するような佇まいの街。日本に帰国しニュース動画を見ると、その街に火炎瓶が飛んでいた。風向きに合わせて世界や人はすぐ変わる。自分が見ていたものは夢だったのか?普段の生活と一枚壁を隔てた先にある微かなゆらぎを拾い集めた。

『あの人の顔を思い出せない』
見ようとすればするほど見えなくなる。人は自分が気になる部分にしか目を向けず、受け取った情報で意識を構築する。本当のことを知ろうとした(知った)時には事態は後戻りできなくなっていることがある。画面上をわざと欠落させることで、鑑賞者の意識がどこに落ち着くのかを実験した。

『朝の夢』
目覚めた時にはあの人はもういないかもしれない-
私にとって「母」とは、私を育ててくれた「祖母」だった。無常の愛を与えてくれた母が初めて語った、最愛の人との出会いと別れ。

Profile

池添俊[Shun Ikezoe]
1988年香川県生まれ、大阪府出身。池添は、個人の声や記憶を収集し、普遍的な声へと再構成するスタイルで制作している。中国人の継母との生活を描いた『愛讃讃』(2018)が、イメージフォーラム・フェスティバル2018 で優秀賞を受賞。同作は、第40回ぴあフィルムフェスティバル、第43回香港国際映画祭などで上映される。育ての親である祖母の声から作った『朝の夢』(2020)は、第31回マルセイユ国際映画祭、第56回ペサロ映画祭、第58回ニューヨーク映画祭など多数の映画祭で上映。また、パンデミック下の生活で内なる声に耳を傾けた『あなたはそこでなんて言ったの? 』(2021)が第59回ニューヨーク映画祭から正式招待される。そのほか、アーティスト・イン・レジデンス「現代地方譚8」(2021)、グループ展「暗くなるまで待っていて」(2021)に参加するなど、その活動は上映のみに留まらず、発表の場を拡張している。
https://www.shunikezoe.com/