忘れられた空間
作家:アラン・セクーラ、ノエル・バーチ
(116分/2010)英語、オランダ語、中国語、韓国語、インドネシア語、スペイン語 ※日本語字幕
Filmmaker: Allan Sekula & Noël Burch
Year of production : 2010 Length : 116 minutes
コンテナは1950年代半ばのアメリカで発明され、アメリカの港湾で扱われるようになって以降、世界中の物流業界で基本的・物理的単位となった。この鋼の箱は生産・商品・労働といった人々の営みを抽象的で不可視なものにし、物流業界そのものだけでなく、海洋空間をも「忘れられた空間」に変えてしまった。この作品が描きだしているものは、我々の生活を安価で快適なものにしてくれる商品やサービをス支える物流空間とそこに関わらざるを得ない人々が、いかに視界から排除され、搾取され、富裕層に命運を握られているのか、という肥大しきったシステムそのものである。舞台はヨーロッパ、アメリカ、香港、中国、そして海上空間。非常に広範囲にわたる取材から考察されたアラン・セクーラ自身によるナレーションの説得力は圧倒的なものだ。
近年、輸入遅延、スエズ運河の座礁、ギグワーカーの増加など、この「忘れられた空間」が隠し切れなくなる事態が多発している。こうした危うい情勢の中、2010年に制作されたこの作品は極めて予言的なものとして今後も存在感を増していくだろう。
Profile
アラン・セクーラ(1951-2013)
ペンシルバニア州生まれ。カルフォルニア大学サンディエゴ校で美術を学び、在学中から写真を用いた制作活動を始める。主な作品に《FISH STORY》(1995)、《忘れられた空間》(2010)。PARASOPHIA(京都 / 2015)では《催涙ガスを待ちながら》(2010)が展示された。1970年代中頃から「写真の意味の創案について」(1975)、「逆なでされた写真」(1984)、「身体とアーカイヴ」(1986)などの論考も発表し、その後の写真論に大きな影響を与える。
その活動を通じて「芸術写真」と「ドキュメンタリー」との関係性を批判的に考察し、ドキュメンタリーという映像形式の可能性を模索し続けた。
ノエル・バーチ(1932-)
映画監督・映画批評家。サンフランシスコ生まれ。1951年よりパリに移住し、1954年に高等映画学院を卒業。『Theory of Film Practice』(1973)は映画理論の古典的名著とされている。
主な映像作品に、『Noviciat』(1964)、『Red Hollywood』(1995 / トム・アンダ―センとの共同監督)、シリーズ「われらの時代のシネアストたち」からアンドレ・S・ラバルトとの共同監督『La première vague』(1968)、『Rome brûle – Portrait de Shirley Clarke』(1970)など。